自己啓発本にギモンを感じているあなたへ。本に使われていませんか?『ビジネス書を読んでもデキる人にはなれない』
書店に行くと、ひときわ存在感を放っているコーナーがあります。
人生が変わる、できる、効率アップ、果てには宇宙の法則など…それらのメッセージが持つ空気に、良くも悪くも圧倒されませんか?
【ビジネス・自己啓発】の棚です。
欲しい本は自己啓発コーナーの近辺にあるのに、あの独特の雰囲気のせいでコーナーにすら近寄れない人もいるのではないでしょうか。
今回紹介する、『ビジネス書ばかり読んでもデキる人にはなれない』著:漆原直行(マイナビ新書)が触れているのは、ビジネス書の中でも教養・専門知識的なものではなく、主に、自己啓発・成功哲学と呼ばれる類いのものです。
この記事ではそちらを「自己啓発書」と総称します。
もともと自己啓発は、ニューソートという、アメリカで興ったキリスト教の異端的な思想に影響を受けたものでした。
この手の自己啓発書の問題点は、本の中で巧みに宣伝されるセミナーに高額なお金をつぎ込み、著者を教祖のようにあがめ(カルト宗教で用いられる洗脳テクニックを使いこなす著者も一定数いるので、注意が必要ですね)、自分の頭で考えられなくなること。
また、そこまで極端でなくとも、自己啓発書中毒になり、内容もよく考えずにひたすら買い漁ること(読んだは良いけど高揚感が醒めてしまった、またあのヤル気の出る感覚を味わいたい…そしてまた次の本へと…栄養ドリンク的な読み方をしてしまうのですね)。
著者はこうした面から自己啓発書に否定的ですが、本としてやみくもに批判しているわけではありません。
自己啓発書の中でも、『人を動かす』『思考は現実化する』『7つの習慣』といったベストセラー・ロングセラーのいわゆる古典的名作を繰り返し読んでみることは、「悪くはない」ということです。
また、本書では触れられていませんでしたが、古典の一つとして言及されている『思考は現実化する』について、作中の、ナポレオンヒルの著名人との交流に関わるエピソードがほとんど嘘だった可能性が高いそうです(こちらの記事を参考にさせていただきました)。
とはいえ、成功者を長年分析し続けただけあって、『思考は現実化する』本文には、人生における普遍的なヒントや原則が多いのも事実です。
話は変わりますが、良書のネームバリューを利用する作者もいるようで、カーネギーや『マネジメント』のドラッカーなどの信奉者達にも見られるようです。
『ビジネス書を読んでもデキる人にはなれない』においても、ほとんどの自己啓発本は、『人を動かす』『道は開ける』『7つの習慣』等の古典的名作を薄く引き伸ばした焼き直しであることを指摘しています。
ちなみに前述『思考は現実化する』の冒頭に載っている学習要領では、
自己啓発書を読むときのコツとして、既存の啓発書のノウハウを多く引用した本は読むのにふさわしくない
ということが語られています。
ちなみに、こちらの『ビジネス書を読んでも~』著者へのインタビュー記事によると、自己啓発への反動か、最近のトレンドは、教養が深められるものにシフトしているとのこと。
また、漆原氏は本の中で、自分の専門分野の本を読み、かつ、ジャンルにとらわれず、興味のあるものも読んでいったほうがいいことを語っています。
小説やノンフィクション、世界史や科学、経済学など、幅広く、かつ自分の専門分野も持ちつつ読書を続けていく、ということ。
例えば私の場合、無宗教ですがひとつの教養として、聖書に興味がありました。
聖書の本文や教養系の解説書などを読んでみると、欧米的な社会・文化・思想それら全般に影響を与えているものの源流に触れることができます。少なくとも、一度目を通しておくぶんには、海外の様々な本の内容をより理解するのに、おおいに役立つのではないでしょうか(読んだ本を下に載せておきます)。
私自身も自己啓発書漁りにハマっていた頃に、そういえばどこかキリスト教的な考え方があるなと気づき、調べていくうちに、ニューソート系自己啓発の実情にたどり着いたのでした。
もともとゲーテやニーチェといった西洋思想・文学が好きで、その興味から出発して、教養としてキリスト教の解説本に触れていました。それらの読書体験のおかげで、自己啓発書との向き合い方について、思考停止せずに判断できたところが大きいです。
そんな私自身の自己啓発書ブームは、本を読むにしても、教養を深めて自分の頭で考え、内容を判断していく重要さを痛感した経験でした。
教養を深める意義については、ブログ下の出口治明氏の本がおすすめです(あくまでも私が個人的に、ということで)。
■まとめ
今回紹介した『ビジネス書を読んでもデキる人にはなれない』は、
自己啓発本をよく読む、あるいは興味があって何冊か読んでみたいという方、そして、自己啓発というジャンルに疑問を感じている方にオススメです。
本来読みこなして、主体的に使いこなすべき本に、逆に使われていないか。
一度立ちどまって考えてみるために、ぜひ本棚に挿しておきたい一冊です。